第14回 シンポジウム ご報告

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  • 日 時:令和3年11月18日(水) 16:00~17:30
  • 場 所:テラプロジェクト Aゾーン
  • 参加者:企業正会員:2社(6名) 企業賛助会員:1社(1名) Web参加者:10名
        事務局 7名    計: 21名
  • 司会・進行:大河内基夫(理事/事務局長)

【開会挨拶】(寺谷 誠一郎 理事長)

本日は ZOOM参加で、鳥取県の智頭町からご挨拶させていただきます。智頭町は、93%が山林で昔は林業が盛んで、大変裕福な町でした。しかし、木材市場が急速に冷え込んで林業が衰退し、人間が山に入らなくなった。枝打ちが行われなくなると、陽が差し込まなくなり下草が生えなくなり、山の動物の食べ物が無くなった。智頭町には数万頭のシカがいて、里に出てきておじいちゃんやおばあちゃんが作った野菜を次から次へ食べる。智頭町では、シカ1頭に15,000円の賞金を付けて駆除している。多い方は、150頭仕留めて、300万円くらいを手にされている。智頭町のシカは少し減ってきたが、どうも、シカが悪いのではなく、人間が自然を壊したことが原因でないだろうかと思う。経済優先で山がお金にならなくなると、途端に人が山に入らなくなったという悲惨は経緯があった。今日は、石井理事長様にお話しいただきます。クマや他の動物ことでも、人間がもっと反省して森を守ってやらなければいけないと思っている。今日は、講演を楽しみにしておりました。石井理事長、よろしくお願いいたします。

【来賓挨拶】(富国生命保険相互会社 執行役員 不動産部長 浅見 直幸 氏)

智の木協会は、2008年の5月4日に発足し、このシンポジウムも14回目となりました。私は、このシンポジウムを楽しみにして居りまして、毎回参加してきました。しかし、一昨年、昨年とコロナ禍のために、大阪はおろか東京から出られないという状況が続き、本日は二年ぶりの大阪となりました。緊急事態宣言解除後は、新規感染者数の減少が続き、東京や大阪でも感染者数が一桁となり、他の府県ではゼロと言う日もあります。このまま終息するのかと思いつつも、これから冬を迎えるので、第6波も懸念されております。マスク、手洗い、ソーシャルディスタンスを守りながら、皆さんご自愛いただきたと思っております。

コロナ禍の中で、一つだけうれしいことがあったとすれば、ZOOMなどのシステムのお陰で、様々な理由で会場へ行けなかった人も貴重な講演を視聴できるようになったことです。先日までこのことを実感しておりませんでした。この間、北見支社に出張し営業職員と対話する機会がありました。私は、営業職員は早くコロナが落ち着いて、東京へ出張して研修を受けたいと思っていると考えていました。しかし、多くの営業職員は小さな子供がいるので、「遠方での研修を受けられなかった」、「研修を受けるために、子供の預け先を探すのが苦痛だった」と言う話を聞きました。そして、今回はリモートで研修を受けられたので、大変うれしかったそうです。リモート研修には、意外な長所があることを発見しました。弊社の社長の米山は、常々、ピンチはチャンスだと言い続けております。こういう時こそが、変革のチャンスだと力説しています。

智の木協会には、今、正にチャンスが到来しようとしていると思います。先般、COP26が開催されました。討議は、CO削減に終始していたように見えます。石炭火力の段階的な廃止か、削減かで揉めていました。これまで散々COを排出して経済大国になった国から石炭火力の廃止を言われても、途上国が反対するのは当然であることは自明でした。また、牛が出すゲップも削減の対象として話題になっています。牛からは、肉、牛乳、チーズなど享受してい訳ですが、巷では、大豆から作った代替肉が薦められています。昔から日本人は、大豆を納豆、豆腐、味噌、醤油等に活用している訳であり、更に肉まで大豆由来に転換する必要があるのでしょうか。大豆の作付だけが突出するのも問題があるように思ってしまいます。まず、食品ロスを削減することが重要だと私は思っています。

CO2削減は、誰もが共感できることから始めなければなりません。地球にとって大事なことは、地球の生命力を回復することで、植物も動物も昔のように共生できる環境を回復することが先決ではないでしょうか。そのためには、人間一人一人ができることから進めればいいのではないでしょうか。一人が一本の木を植えれば、世界中で79億本の木が植えられます。智の木協会が推進している、緑豊かな環境作り、Plant friendly life、One Green Project は、地球温暖化防止の第一歩です。一本の植樹は難しくても、一本の無駄な伐採をとめることはできるかもしれません。今こそ、智の木協会の理念、活動を大阪のみならず、日本中へ、そして世界中へ浸透させるチャンスだと思っています。これからも、皆さんと手を取り合って、各自で実践して行こうではありませんか。

【活動報告】(小林昭雄 代表幹事)

 この総会の前に理事会が開催されまして、大阪府立大学の岡澤敦司准教授の学術理事就任を ご承認いただきました。また、昨年度の活動と費用・経費、収支決算と今度の予算もご承認を頂きましたので、ご報告いたします。

昨年度の活動報告でございますが、慣れ親しみ十数年続いていたホームページを新しくしました。今年の5月8日の創立記念日から、新しいホームページがスタートしました。ホームページには、寺谷理事長や私のエッセイも掲載されています。私のエッセイでは、退職してから林檎栽培を始めた父と林檎の思い出について書きました。宗教改革者マルチンルターは、”Wenn morgen die Welt unterginge, würde ich heute ein Apfelbäumchen pflanzen.もしも明日世界が終わるなら、私は今日リンゴの木を植えるだろう。“と言っています。正に、智の木協会思想、「木を植えることは未来へ繋がる」との想いと同じだと思っています。

 もう一つのトピックスは、智の木協会が、みどりで地方と都市を結びつける機能を有する「日本みどりのプロジェクト推進協議会」との協力団体となったことです。日本みどりのプロジェクト推進協議会のホームページに、智の木協会が博覧会協会とともに協力団体として掲載されております。これにより、今年度からは、智の木協会の理念の全国展開が期待できるようになりました。また、8月25日には、「日本みどりのプロジェクト推進協議会」のシンポジウムをここで開催し、全国に発信しました。

これから、一年間、新しい企画を考えながら会員の皆様とともに、智の木協会を発展させて行きたいと思っております。何卒、皆さんのご支援をよろしくお願いいたします。

【講 演】

〇講 師                  (地独)大阪府立環境農林水産総合研究所 理事長 石井実 氏

〇題 名                  「野生生物から見た大阪の自然 ‐急速に劣化する生物多様性と対策‐」 

 <講演要旨>

生物多様性biodiversityとは、地球上の生物に見られるバラエティの豊かさを表す言葉で、ギリシャ語の生命biosと英語の多様性diversityを組み合わせた造語である。その内容は、「生物多様性条約」の第2条で、「生物多様性とは、すべての生物の間の変異性をいうものとし、種内の多様性、種間の多様性、および生態系の多様性を含む」と定義されている。

大阪府では、2020年度までに府民の70%が「生物多様性」を認知していることを目標としてきたが、大阪府のアンケートでは「聞いたことがある」が 約3割で、「内容まで知っている」は約2割に留まり、生物多様性の認知度アップに失敗している。

生物多様性について「内容まで知っている」とは、少なくとも生物多様性に3つのレベル、生態系、種間、種内の多様性があることを理解していることである。先ず、生態系の多様性とは、地球にはいろいろな気候帯があって、その中に森、草原、川、湖沼、海洋などにそれぞれの生態系があることを意味している。分かり易いのが種間の多様性で、地球上には多様な生物種がいるということである。実は、「地球上には何種の生物がいるか?」と聞かれたら、その正解は「解らない」である。分類学的には約175万種の生物を把握しているが、人類が未だ知らない生物を含めると3千万種とも1億種ともいわれる生物が地球上で、お互いに関係しながら生息していると考えられる。種内の多様性とは、遺伝的な多様性と言い換えられる。人間はヒトと言う種だが、ここにいる皆さんだけでも、多様な個性の人々がいる。イネに多種類の品種があるように、各々の種には多様な形質の個体が含まれるということを意味している。近親交配が続き、遺伝的な多様性が失われると、子孫を残せなくなる。

日本の生物多様性の劣化・減少を環境省のレッドリスト掲載種数でみると、絶滅危惧種が増加の一途である。日本の生物多様性国家戦略では、生物多様性が減少する危機要因として、次の4つがあげられている。

  • 開発や乱獲などの人間活動による危機
  • (里地里山などにおける)人間の自然に対する働きかけの縮小による危機
  • 外来生物や化学物質などの人間により持ち込まれたものによる危機
  • 地球温暖化や海洋の酸性化など地球環境の変化による危機

今日は、②の里地里山と③の外来生物に絞ってお話する。

外来生物問題から始めます。先ず、最初はアライグマ。

アライグマは、北米原産で1970年代のアニメで人気となり、ペットとして大量に輸入された。可愛い顔だが気性は荒い、室内で飼育して大きくなると山に遺棄されて野生化した。全都道府県に分布拡大し、甚大な農作物被害だけではなく、野生在来種への被害も大きい。1980年代に大阪府に侵入した。侵入直後は田畑の広がる山麓部を中心に生息していたが、次第に市街地域にも進出し、現在は都心部を除く府内のほぼ全域に分布を拡げた。生息域の拡大とともに、農業被害のみならず、本来あるべき地域特有の自然や暮らしにも大きな影響を及ぼしている。アライグマの前足は人間と同じように親指と他の指が向かい合い、物を“握れる”ので、木に登って果樹を荒らしたり、池の魚を掴んで捕食したりする。

全国に広まった外来種の植物に、オオキンケイギクがある。オオキンケイギクは、黄色の花をもつ北米原産の鑑賞植物で、明治時代に緑化植物として導入され、全国に広まった。繁殖力が強く在来種に悪影響を与えるので、日本の侵略的外来種ワースト100に選定されている。

シンテッポウユリも、全国に広まった外来種である。シンテッポウユリの“シン”は、シンゴジラの“シン”と同じで、新しいの意味。シンテッポウユリは在来種のテッポウユリと台湾原産のタカサゴユリをかけあわせた園芸品種である。しかし、風で飛ぶ多数の種子をつけるなど繁殖力が非常に強く、野外に広まると在来種を脅かすなどの懸念があるため、環境省の「生態系被害防止外来種リスト」で「その他の総合対策外来種」に指定されている。

昆虫で、大阪の脅威となっているのは、サクラ・モモ・ウメを虫食むクビアカツヤカミキリである。クビアカツヤカミキリ(クロジャコウカミキリ)は、原産地は中国、朝鮮半島、ロシアなどで、サクラ・モモ・ウメなどのバラ科樹木の生木の幹に産卵し、幼虫が樹木内部を食い荒らすために、寄生された樹木が枯死する。寄生された樹木の根元には、幼虫の糞と木屑の混じったうどん状の「フラス」が見られる。日本では2012年に愛知県で発見され、その後、埼玉、群馬、東京、徳島などでも確認された。中国からの木材・梱包材に潜んで持ち込まれた幼虫・蛹が日本で成虫となって、広がったとされている。

大阪では、クビアカツヤカミキリは2015年に大阪狭山市で初めて記録された。その後、大阪府南部から分布を拡大して、すでに大阪市にも侵入した。クビアカツヤカミキリが寄生した樹木はやがて枯死するので、まだ大阪都心には到達していないと思うが、分布の拡大を止めなければ、大阪城公園や造幣局の桜、奈良県吉野の桜さえも危ない。

大阪城公園の生物種について、2008年に追手門学院が調査報告を出している。それによれば、都心にありながら、植物が540種、動物が704種と、実に1200種以上の野生生物が確認されている。しかし、哺乳類ではタイワンリス、ヌートリア、爬虫類ではミシシッピアカミミガメ、スッポン、両生類ではウシガエル、魚類では、カムルチー、オオクチバス、ブルーギルなど、多くの外来動物が既に大阪城公園に生息しているようだ。

一方、淀川でもオオクチバス、ブルーギル、アメリカザリガニ、ウシガエル、アカミミガメ、スクミリンゴガイ、ナガエツルノゲイトウ、ミズヒマワリなど多数の外来種が定着している。水草で被害が大きい外来種は、南米原産のナガエツルノゲイトウで、1989年に尼崎市で見つかり、その後、関東以西に拡大した。水辺に生える多年草で茎は1m以上にもなり、猛烈に繁殖して在来植物などを衰退させる。淀川の河川敷には、東南アジア・オーストラリアなどの熱帯・亜熱帯に分布しているセアカゴケグモも潜んでいる。1995年に大阪府高石市で発見され、現在、ほぼ全国から確認されている。性格はおとなしいが、メスは強い神経毒(α-ラトロトキシン)をもっている。スクミリンゴガイは、俗にジャンボタニシと呼ばれる南米原産の淡水巻貝で1981年に食用として導入したが、需要がなく廃棄されたものが野生化し、関東以南に広がった。イネ等の農作物を食害する。

侵入を止めなければならない外来生物に、ヒアリがある。ヒアリは、南米原産で働きアリは多型で、体長2.5mm~6mm、体色は赤褐色、腹部が暗色である。近年、オーストラリア、ニュージーランド、マレーシア、台湾、中国南部など環太平洋諸国に急速に分布を拡大している。在来生物の捕食・競合による駆逐.農業被害、刺傷による人の健康被害等.侵入・定着した場合は甚大な被害をもたらす。農地に侵入した場合、危険で農作業が困難になる恐れがある。

侵略的な外来生物の引き起こす問題をまとめると、

• 在来種の捕食(オオクチバス、ウシガエルなど)

• 在来種との競合・駆逐(アカミミガメ、ナガエツルノゲイトウなど)

• 生態系基盤の損壊(オオキンケイギク、ハリエンジュなど)

• 交雑による遺伝的撹乱(タイワンザル、外国産クワガタなど)

• 病気・寄生虫の媒介等(アライグ マ、アフリカマイマイなど)

• 農林水産業等への影響(アライグマ、クビアカツヤカミキリなど)

• 人の健康への影響(セアカゴケグモ、ヒアリなど)となる。

外来種(alien species)のうち、その導入もしくは拡散が生物多様性を脅かすものを侵略的外来種(invasive alien species)と呼ぶ。わが国では、2005年に「外来生物法」が施行され、生態系等に係る被害を及ぼす(おそれのある)外来生物を政令で「特定外来生物」に指定し、その輸入や飼養の制限、駆除などを実施している。特定外来生物に指定されると飼養、栽培、保管又は運搬すること、輸入すること、野外へ放つこと等が禁止される。

また、2016年3月に「生態系被害防止外来種リスト」が公表された。生態系被害防止外来種リストでは、我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種を大きく、定着予防外来種、総合的対策外来種、産業管理外来種の3種類に区分している。

定着予防外来種にはヒアリなど101種類が含まれ、定着を予防する外来種で国内に未定着だが、導入の予防や監視、野外への逸出・定着の防止、早期防除が必要な外来種である。総合的対策外来種はアライグマやオオクチバス、セアカゴケグモ、オオキンケイギク、ナガエツルノゲイトウなどの特定外来生物のほか、スクミリンゴガイやシンテッポウユリなど310種類が含まれ、既に国内に定着していて被害防止のため、防除、遺棄・導入・逸出防止等のための普及啓発など総合的に対策が必要な外来種である。産業管理外来種はニジマスやセイヨウオオマルハナバチなど18種類あり、産業・公益的役割において重要で、代替性がなく、利用にあたっては適切な管理を行うことが必要な外来種が該当する。

総合的対策外来種は、更に対策の緊急性が高く、特に積極的に防除を行う必要のある緊急対策外来種、甚大な被害が予想されるため、特に対策の必要性の高い重点対策外来種、その他の総合対策外来種の3区分に分けて対策が取られている。緊急対策外来種のほとんどが特定外来生物だが、ノネコ、アカミミガメ、アメリカザリガニは、いろいろな課題があり特定外来生物に指定されていない。ノネコは、南西諸島などでは、アマミノクロウサギやヤンバルクイナを捕食するなど生態系に深刻な被害を及ぼしているが、もとはと言えば野生化したイエネコである。一方、アカミミガメとアメリカザリガニは止水生態系の生物多様性に大きな影響を及ぼしているが、人気があり数多く飼育されており、教育現場でも飼育・利用されている。これらを特定外来生物に指定すると、すぐに届け出が必要となるが、そうすると、届け出する手続きが嫌われて大量に廃棄され、生態系への悪影響がかえって大きくなる恐れがある。外来生物法には、このほかにも、外来種と在来種などの交雑生物を法的にどのように規制するかなど、多くの問題が残っている。

このため、現在、外来生物法の2回目の見直しが行われている。主な論点は、

• 「外来種被害防止行動計画」や「生態系被害防止外来種リスト」は、生物多様性国家戦略に基づいて作成されたため、外来生物法上の位置づけがない。

• 侵略的外来種の初期侵入が確認された場合、関連情報の収集や特定外来生物を緊急的に指定できる体制や枠組みを確保する必要がある。

• ヒアリなど未定着や侵入初期の外来種の早期発見や早期防除、拡散防止を行うため、付着または混入の“おそれ”のある段階から、生息調査や消毒・廃棄による防除などができるようにする必要がある。

• アカミミガメやアメリカザリガニなど、生態系等への被害があるものの、多数飼養されており、規制により違法飼養や遺棄が大量に発生するおそれがある種については、飼養には規制をかけずに輸入・流通・放出などを規制するカテゴリーが出来れば、指定できるのではないか。

• 特定外来生物と交雑することにより生じた生物の規制の在り方について、さらに検討する必要があると思っている。

である。

里地里山の話に移ります。例えば、大阪府立大の中百舌鳥キャンパス周辺は、現在は市街化されているが60年前は、この写真のように田畑の広がる田園地帯だった。さらに、90年前の地図を見ると広大な田園地帯の真ん中で、トンボやゲンゴロウ、メダカ、カエルなども多かったはずだ。実際、現在は環境省の絶滅種とされているスジゲンゴロウの記録が昔の学生の卒業論文に残されている。

現在の箕面国定公園周辺には、照葉樹林の森が広がっている。しかし、江戸時代の箕面の山は、ところどころに杉や松の疎林があるだけで、「はげ山」に近かった。これは、江戸時代の人々が、調理や暖房のための燃料(薪や炭)を里山の木に依存していたからである。木だけではなく、下草や低木は刈敷肥料として、落ち葉は堆肥として、田畑に使われていた。里山は、10-20年サイクルで、伐採、萌芽、下草刈り、落葉かきが繰り返されて、落葉樹の雑木林が維持されていた。しかし、1950~1960年代ころから、薪・炭・堆肥がガス・電気・化学肥料に置き換わり、里山林が不要になった。人々が、伐採、下草刈り、落葉かきで手入れしない関東や関西の里山は、植物相が常緑樹の照葉樹林へと遷移する。

大阪では、里山林が放棄されると、まず林床にネザサが伸長する。ネザサが繁茂すると、キツネノカミソリ、カタクリ、ササユリ、ショウジョウバカマなどの草本が衰退するなど、林床植生が単純化する。また、放棄された里山林を竹林が飲み込む。これは安価なタケノコや竹製品の輸入で竹林の価値が失われ、竹林が放棄されたことによる。その結果、各地で竹林の自然拡大が始まったが、里山林の管理水準の低下で、竹林の拡大が止められない。人間の手入れによって守られてきた生態系は、里山林だけではない。水田も、畦畔草地や水路などにも多様な生物が生息・生育し、河川から淡水魚などが出入りする生態系であった。しかし、圃場整備が行われ、水田が必要な時期だけ水のある「乾田」となり、畦畔にあった在来植生も失われて、外来植物が侵入した。また、ため池や水路はコンクリートで護岸され、水路がパイプラインになったところもある。

全国規模で里地里山の自然環境が変化し、サシバ、ミナミメダカ、ナゴヤダルマガエル、ゲンゴロウ、ギフチョウ、オオムラサキ、フジバカマ、キキョウなど、いまや日本の絶滅危惧種の約半数は里地里山に生息する種となっている。里山を守るために、政府はCOP10で、国際社会へ「SATOYAMAイニシアチブ」を提唱して、「人が持続的に資源を利用しながら、人との関わりの中で維持されてきた二次的な自然が、生物多様性の保全にも重要であること」をアピールした。また、環境省は、日本国土の約4割を占める里地里山の保全と活用を国民的運動として展開するという「里地里山保全活用行動計画」(2010年9月)を発表した。里地里山を農家や地域コミュニティーだけで保全・活用することは、もはや困難で、民間団体や企業、行政、専門家など、多様な主体が参加する「新たなコモンズ」の形成が望まれる。企業の取り組みとしては、企業の森やビオトープを設置・管理するなどが期待される。

環境省は、里地里山を次世代に残すべき自然環境の一つと位置づけ、日本全国に500箇所の「重要里地里山」を選定・公表した。大阪府内には、22箇所ある。

ここからは、生物多様性保全に向けた国内外の最近の動向をお話しします。

3月に、次期生物多様性国家戦略の検討のため行った生物多様性及び生態系サービスの総合評価(Japan Biodiversity Outlook 3:JBO3)の結果が公表された。JBO3のキーポイントは、下記の通りである。

1. 「4つの危機」による生物多様性の損失・生態系サービスの劣化が継続、回復の軌道には依然として未到達

2. OECM等により生態系のネットワークを構築し、生態系の健全性の回復を図ることが有効

3. 自然を基盤とした解決策(NbS)による気候変動を含む社会課題への対処など、総合的な対策によって「社会変革」を起こすことが重要

4. 自然資本を活用した循環型・分散型の自然共生社会を目指したさまざまな対策(施策)を実施していくことが必要

– ビジネスと生物多様性の好循環(ESG金融、TNFD)

– 教育や新たな価値観の醸成(ESD) など

このJBO3に応える形で、環境省は8月に、2030年までに自然環境保護エリアを陸と海のそれぞれで30%とする目標を発表した(30 by 30計画)。現在は、陸の20.5% 、海域では13.3%が自然環境保護エリアとして認定されているため、陸で約10% 、海については約17%の追加認定が必要となる。今後、環境省は、2022年度中に30by30実現のロードマップを発表し、2023年度には少なくとも100地域以上を自然環境保護エリアとして認定、2030年度までに陸と海の両方の地域で30%以上の認定を実現するとしている。

自然が保護された地域を拡大するためには、「民間等の取組によって環境が保全されている地域」や「環境保全を目的としていない管理が結果として自然環境を守ることにも貢献している地域(Other Effective area-based Conservation Measures :OECM)」に期待が集まる。OECMは、従来の「保護地域」の網では対象とされてこなかった、都市部の人工緑地・都市公園、農山村・里地里山、工場周辺の緑地、軍用地・演習場などを適切に評価する仕組みとなる。分断されていた既存の保護地域の間をOECM地域でつなぎ、ネットワーク化すれば生態系の健全性回復に貢献できる。

大阪府では、今年度中に「生物多様性大阪戦略」が策定される予定である。府内では、低湿地やワンド、アマモ場、干潟、里地里山などの貴重な生態系の自然環境が悪化している。絶滅種や絶滅危惧種も増加して、野生生物の衰退が顕著である。今後は、既存の保護区の質を高めるとともに、OECMなどの民間と協働する仕組みを積極的に活用するなどして保護地域を拡大し、野生生物の生息場所となる生態系のネットワークを確保する必要がある。また、生物多様性の4つの危機への対応を含め、これ以上絶滅種を出さないなど、大阪の生物多様性を維持・増進する実効性のある取り組みが期待される。

【閉会挨拶】(清水建設株式会社 関西支店 営業部長 松村 和幸氏)

本日は、地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所の石井理事長さまから、「野生生物から見た大阪の自然 ‐急速に劣化する生物多様性と対策‐」 というテーマでご講演いただきました。どうも、ありがとうございました。

弊社は、この大阪富国生命ビルの設計・施工に携わったご縁で、平成22年度から智の木協会の活動に参加しております。本日のテーマは、弊社との関連が大きく、興味を持ってお話を聞かせていただきました。

弊社は、この大阪富国生命ビルの設計・施工に携わったご縁で、 平成22年度から智の木協会の活動に参加しております。本日のテーマは、弊社との関連が大きく、興味を持ってお話を聞かせていただきました。

弊社では、建設活動が生態系へ影響を与えることを認識した上で、生物多様性の保護、共生を環境経営課題として捉えております。そして、ガイドラインを作成し、生物多様性への配慮の意識を設計・施工面に反映させております。石井理事長のお話をお聞きして、更にこれらの活動に一生懸命に取り組んでいかなければならいと思いました。石井理事長、どうもありがとうございました。最後になりましたが、皆さんのこれまでの智の木協会の活動に対するご支援に感謝するとともに、引き続きのご支援を賜りたいとの思いを持ちまして、第14回のシンポジウムを閉会させていただきます。   


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