第11回 智の泉談話会 ご報告

  • 開催日時: 2022年8月20日(土) 14時-16時
  • 開催場所: テラプロジェクト Aゾーン
  • 参加者:  企業賛正会員:1社(2名)
          個人会員:3名  外部参加:1名   WEB参加:3名
          事務局 :4名       計:13名 
  • 話題提供者 :飯野 博道 氏  公益財団法人大阪みどりのトラスト協会 事業マネージャー
  • 話   題:「大阪の里山を守る! ~大阪みどりのトラスト協会の活動概要~」

<ご講演要旨>

話題提供者:飯野 博道 氏 

 大阪みどりのトラスト協会は、1988年に設立され、2012年に公益財団法人に認定された。「みどりの未来を わたしたちの手で」をキャッチフレーズに、大阪府民の参画や協働による自然環境の保全運動や、緑化運動を推進し、みどり豊かで快適な環境づくりに寄与することを目的に、様々な活動を行っている。

今日は、その中から①自然環境(里山)保全、②緑の募金事業、③次世代の子どもたちへの取り組みについて、お話したい。

 自然環境(里山)保全では、大阪府内の三か所の保全地で自然環境や里山の保全に取り組んでいる。

和泉葛城山のブナ林

和歌山県との府県境にある和泉葛城山の標高800 m前後付近に、大正12年に国の天然記念物に指定されたブナ林がある。ブナ林は日本の冷温帯を代表する森林で、和泉葛城山のブナ林は、南限圏に近い場所でブナの純林が存続していることに価値がある。和泉葛城山のブナ林がある場所も含めたエリアが、1996年に金剛生駒紀泉国定公園に指定された。

 周囲の伐採、林道の開設、ハイキング道の拡張、キャンプ場の利用などでブナ林を取り巻く環境が大きく変化したことにより、ブナの大木の枯死が増加し、若木が育っていない。天然記念物区域内の約8 haをコアゾーンとし、原則的に人の手を入れないことにしている。コアゾーンの周囲約47 haをバッファゾーン(緩衝樹林帯)とし、大阪府が土地を取得し、保護増殖検討委員会の指導・助言のもと当協会と保全活動団体が連携して、山で採取した種子を苗畑で幼木に育ててバッファゾーンに戻し、バッファゾーンもブナ林へ誘導していく保全事業を実施している。

 天然記念物区域内では、春先にせっかくブナが芽生えても無許可でブナの苗を採取したり移し替えたりできない。2020年は、久しぶりのブナの生り年だったため、許可をとりコアゾーンで約15,000個体の種子を集めたが、そのなかから発芽したのは1個体だった。和泉葛城山ブナ林の保全で問題・障害となるのは、温暖化、ナラ枯れ(カシノナガキクイムシ)、アライグマ・シカの食害である。シカはまだ確認されていないが、センサーカメラを設置してチェックをしている。

三草山ゼフィルスの森

大阪府豊能郡能勢町と兵庫県猪名川町の府県境にある三草山(標高564 m)の南東斜面に、14.5 haの大阪府自然環境保全条例に基づく緑地環境保全地域がある。この場所には、日本に生息するゼフィルス(小型のミドリシジミ類のチョウの総称)25種の内、10種が生息している。その中のヒロオビミドリシジミは、府内で三草山だけに生息していて、日本国内の分布の東限でもある。

大阪みどりのトラスト協会では、1992年から「三草山ゼフィルスの森」として緑地環境保全管理事業を開始した。

ここでは、チョウ類を指標とした里山林の管理を行っている。

チョウは、①既に分類、生態、分布などの情報が集積されている、②幼虫の食草、成虫の生活要求も種により様々である、③昼行性で明瞭な色彩・斑紋を持っているという特徴があり、生息数の把握が比較的容易であることから里山林の環境指標として最適である。

 三草山には、60種以上のチョウ類が生息している。その中には、笹を食べるチョウもいれば、スミレを食べるチョウもいる。この場所はもともと、薪炭用の木々を採取していた林だった。下草刈りによって笹が取り除かれると菫が生育して、スミレを食べるヒョウモンチョウ類が増加する。反対に、下草管理を止めると、笹が繁茂してササを食べるヒカゲチョウ類が増える。いろんな種が生息する場所にするため、下草刈りをする場所としない場所を設定するゼブラ刈りを行っていた。毎年6月に、日本鱗翅学会と大阪みどりのトラスト協会とで、ゼフィルス類の生息状況調査を行っている。ヒロオビミドリシジミ、ミズイロオナガシジミ、アカシジミ、ウラナミアカシジミの4種は継続的に観察されているが、ミドリシジミは確認されず、他の5種は観察されない年もあり、不安定な確認状況である。

「三草山ゼフィルスの森」では、里山林が高林化し林内が暗くなってきたことから、 かつての里山林の管理方法にならい、2020年に大規模な萌芽更新を行った。萌芽更新すると、7-10年で元に戻る。しかし、ニホンジカの食害が懸念されている。クヌギ・コナラ・ナラガシワなどは、2回萌芽を食べられてしまうと枯死する。「三草山ゼフィルスの森」では、2018年の山腹崩壊斜面の植生回復、スミレなどの成体チョウの吸蜜植物をシカの食害から守り確保することが当面の課題である。

地黄湿地

地黄湿地は、大阪府豊能郡能勢町と京都府亀岡市の府県境に位置する約1 haの滲水湿地である。1998年に大阪府自然環境保全条例に基づく緑地環境保全地域(17 ha)に指定された。貧栄養の滲水湿地である地黄湿地には、 97種もの多様な植物が自生し、湿地特有のさまざまな生きものが生息・生育している。

地黄湿地の周辺林は、薪炭林や農用林で松茸山として利用されていた。湿地内は、牛や馬の飼料や田畑の肥料のための草刈り場だった。周辺から供給される水とシルト(粘土より粗く、砂より細かい土)によって、湿地が維持されてきた。

<地黄湿地に生息する動植物>

サギソウ

しかし、真砂土の流入によって陸地化が進み、自然発生した水路が拡大し湿地の水が偏在するようになった。水が回らないところでは、乾燥化が進み、ススキやイヌツゲ等の灌木類が侵入した。周辺や湿地袖部の森林も手入れ不足で、良質のシルト質の土壌の供給が減り、湿地の日照を遮断して湿地特有の動植物が見られる機会が減っていた。そこに外来生物のウシガエルが侵入して、地黄湿地のシンボルであるハッチョウトンボが観察されなくなった。 

そこで、湿地の袖部を間伐、ウシガエルの捕獲、湿地中央部の平準化、湿地内灌木類の伐採などを行い、湿地再生に取り組んでいる。2020年には、14年ぶりに湿地内でハッチョウトンボが観察され、3年続けて確認された。しかし、人の手を加え続けないと湿地の状態を維持するのは難しい。また、湿地の環境保全には周辺森林の手入れが欠かせない。前年度に湿地の日照環境を良くするために袖部の樹木を除伐した。伐った材木を森林組合に販売したが、組合が購入する規格サイズが決められており、60本ほど持ち込んでも15,000円にしかならなかった。今後緑地環境保全地域(17 ha)内で間伐していく予定であるが、伐った材を有効活用できるアイデアがあれば、是非とも教えていただきたい。ここでもシカ害が深刻で、ササユリや希少種もシカの食害を受けており、鹿柵エリアの拡大など対応が必要である。 

 大阪さともり地域協議会

お話した3保全地のほかに、自然環境(里山)保全活動では、林野庁の森林・山村多面的機能発揮対策交付金事業(大阪さともり地域協議会)事務局として、地元住民やボランティア、NPOなどが、森林所有者と協定を取り交わして里山の保全活動を進める場合に、交付金で支援している。

大阪里山ネットワーク

大阪府内で里山保全活動を実施している団体の情報サイト、大阪里山ネットワークを立ち上げた。大阪みどりのトラスト協会が立上げに携わった団体、大阪さともり事業実施団体、大阪府内で環境問題を取り扱っている団体など27団体の活動を紹介するHPを運営し、少額助成制度を実施して活動支援を行っている。

緑の募金事業

自然環境(里山)保全事業のほかに、もうひとつの事業の柱として緑の募金事業がある。大阪みどりのトラスト協会は、「緑の募金による森林整備等の推進に関する法律」(緑の募金法)に基づき、大阪府の指定を受けて、府内の緑の募金事業の実施団体として、市街地の緑化の推進や森林整備などの事業を実施している。主な事業は、緑化推進事業等交付金、堺第7-3区「共生の森づくり」の推進、生駒山系花屏風支援事業である。緑化推進事業等交付金では、緑の募金活動に協力した団体・学校・企業による地域や学校の緑化を推進するため、募金額の40%を上限に、緑化推進事業等交付金を交付している。2021年度は、280団体に対して2,724,901円を交付した。

次世代の子どもたちへの取り組み

自然環境保全事業・緑の募金事業共通の事業として、次世代の子どもたちへの取り組みがある。自然環境保全の取り組みの一環で、三草山で行われている関大一中能勢プロジェクトや、地黄湿地で大阪府立豊中高校能勢分校の授業に協力している。また、主に緑の募金を活用して学校等への助成事業、平和の緑づくり事業、緑の少年団活動支援事業、に取り組んでいる。学校等への助成事業では、子どもたちによる生物多様性につながる自然環境保全活動、森林整備活動、校庭・園庭等の緑化やビオトープの整備等を助成する「みどりづくりの輪活動支援事業」と、子どもたちが国産木材の利用や緑の効用について理解を深めるため、教育施設の木質化や森林に関する学習の実施を助成する「『学校に森林と木の香りを』整備事業」を行っている。

これからの大阪みどりのトラスト協会について

大阪みどりのトラスト協会は、「緑の募金」活動を着実に運営し、「次世代の子どもたちへの取り組み」を広げていきたいと思っている。また、自然環境保全活動では、三保全地での活動を充実しながら、生物多様性豊かな北摂の能勢地域での保全活動に、既に能勢町と連携している吹田市・豊中市と一緒に取り組みたいと考えている。

ファミリー層への里山保全活動の普及啓発、企業のCSR活動への協力に力を注ぎ、府内での里山保全に関わりたいと思った方々が「トラスト協会に聞けばなにがしかのヒントが得られる。」と思われる存在に成りたいと考えている。

智の泉談話会 風景

以 上


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