第4回 智の泉談話会 ご報告

 

  1. 開催日時:  2020年6月6日 14時-16時
  2. 開催場所:  テラプロジェクト Dゾーン
  3. 参加者: 個人会員:5名 事務局:5名 (計:10名)
  4. 話題提供者 :大阪大学大学院工学研究科  赤松史光教授
         (智の木協会 学術理事)
  5. 談話会

話題提供
「化石燃料の大量消費と環境問題を解決するためのエネルギーキャリア戦略- 水素社会の実現を目指して - 」

2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標として、地球上の「誰一人取り残さない」ことを誓い、SDGsとして、17のゴールと169のターゲットが設定された。
SDGsのゴール13は「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」とされている。

一方、気候変動問題は,国際社会が一体となって直ちに取り組むべき重要な課題であり、国際社会は,1995年から毎年,国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)を開催してきた。2015年12月,フランスのパリで開催された第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)では,2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みとして,パリ協定が採択されました。
パリ協定では、世界共通の長期目標として、気温上昇を2℃未満に抑えることが掲げられた。
また、全ての国が共通かつ柔軟な方法で実施状況を報告し,レビューを受けることも取り決められた。

気温上昇の主な原因は、化石燃料の燃焼によって生じる炭酸ガスである。炭酸ガスには、赤外線を選択的に吸収し、再び放出する性質がある。
このため、太陽からの光で暖められた地球から宇宙へ向かう赤外線が、炭酸ガスによって熱として大気に蓄積され、再び地球の表面に戻ってくる。
大気中の炭酸ガスが増えると、戻る赤外線も増えて、地球の表面付近の大気を暖め、気温が上昇する。この炭酸ガスによる気温上昇を温室効果と呼ぶ。

世界共通の長期目標である気温上昇を2℃未満に抑えるために、日本は炭酸ガスの排出量を2030年には-26%(対2013年比)、2050年には-80%(対2013年比)まで削減することを宣言している。
日本での炭酸ガス排出は、発電所(40%)、製造工場(25%)、運輸・物流(18%)、商業・サービス(6%)、家庭(5%)で94%を占める。

炭酸ガスは出量の最も多い発電所は、東日本大震災後の原子力発電所の休停止によって、石炭など化石燃料の使用割合が増加している。発電所での一次エネルギーは、石油(41%)、石炭(26%)、天然ガス(24%)の化石燃料で90%を超える。
特に、発生する熱量当りの炭酸ガス排出量の多い石炭の割合が大きいことで、諸外国から非難を浴びている。
日本は、COP25の期間中に、温暖化対策に消極的な国に与える不名誉な賞である化石賞を受賞した。
大口の投資元である先進国の年金基金などの中には、石炭火力、その関連産業へは新たに投資せず、保有している株式を売却する動きも見られる。

日本は、当面国内の原子力に頼れない。島国の日本は、隣国のフランスの原子力発電に頼るドイツのように、韓国や中国の原子力で炭酸ガス排出量を削減することも出来ない。
当たり前だが、日本は、再生可能エネルギーを開発すべきだ。しかし、国内の発生する再生可能エネルギーだけで、厖大なエネンルギー需要を賄うことは簡単ではない。
国内の再生可能エネルギー開発の他に日本が採るべき道は、海外の再生可能エネルギーを水素に転換して日本へ輸送し、発電や燃料電池に使用することと、海外の化石燃料を現地で水素やアンモニアに変換して、国内に輸送して利用することである。

再生可能エネルギーの中で、太陽光発電は発電量が季節、天候に左右される。
また、そもそも夜は発電できない。一方、風力発電は、昼夜を問わず発電できるが、採算の良い風の強い発電適地(アフリカ大陸南端、南アメリカ大陸南端、ニュージーランド南島など)が電力消費地から遠いことが多い。
電力は現在の送電技術で送電すると、数100㎞が限度である。
風力による潜在的な発電量は日本の消費電力量の8倍もあり、発電コストが1/10のパタゴニアで発電したエネルギーを液体水素やアンモニア等の水素キャリアに変換して日本へ運べば、炭酸ガス排出の無いエネルギーを利用できる。

 一方、海外の化石燃料を水素へ変換し日本へ輸送する方法は、日豪政府と企業によって既に取り組まれている。
オーストラリアのビクトリア州の褐炭から、水素を取りだし日本へ輸送する計画である。
オーストラリア南東部のビクトリア州から海路で日本へ液化水素を輸送する場合、タンカーは政情が不安定なホルムズ海峡を通過しなくてよい。
計画は、褐炭からの水素ガス製造・液化技術、液化した水素の長距離・大量輸送技術、液化水素の荷役技術の実証に分割して、取り進められている。
褐炭とは、石炭化が不十分な低品位の石炭のことで、水分や灰分が多く、乾燥すると自然発火の危険があるために輸送に適さないなどの難点がある。
世界の石炭埋蔵量の半分が褐炭だが、流通はほとんどなく、地元に建設した発電所などで消費されていた。
ビクトリア州ラトルブバレーの褐炭の埋蔵量は、理論上、日本の総発電量の240年分に匹敵する。
なお、褐炭から水素と取り出す時に発生する炭酸ガスは、褐炭田の沖合約80キロ先にある枯渇しかけた海底油田に注入して、貯留(CCS)することが計画されている。

ところで、水素を輸送するためには、液化しなければならない。水素は、-253℃に冷却して初めて液化する。専用の設備を設置した大規模発電所では問題がないが、中小規模の一次エネルギーとして利用するためには燃焼方法、設備の更新が必要である。
また、ポータブルエネルギーとして、自動車搭載の燃料電池として利用する時にも、水素ステーション、搭載タンクなどの安全性が問題となる。

一方、水素と同じ無機燃料であるアンモニアは、常温で8.5気圧まで圧縮すれば液化する。加えて、液体アンモニアは液体水素よりも体積当りのエネルギーが大きい。
このため、液体アンモニアは、タンクが常温で、小型化でき、貯蔵・輸送面で優れている。アンモニアの欠点は、毒性である。
しかし、アンモニアの刺激臭は強烈で人が忌避するので、ガソリンスタンドのガソリンと同程度の危険性と考えることもできる。
水素からアンモニアを製造する技術は既に確立していて、実証プラントが稼働している。
カーボンフリー水素でアンモニアを合成し日本へ輸送し、石炭混焼発電、アンモニア直接燃焼によるガスタービン発電・工業炉、アンモニア燃料電池への利用が進めば、炭酸ガス排出量の大幅な削減が見込まれる。

アンモニアの燃焼の特徴である層流燃焼速度(燃料が燃える速度が低いこと、火炎の温度が低いことなどが、実用化を妨げる可能性があった。
大阪大では酸素富化燃焼によって、この問題を解決した。これによって、製造工場の工業炉にアンモニア燃焼炉を取り入れて、炭酸ガス排出量を削減する道が開けた。

6. 事務局後書

今回は、リモートで談話会を行いました。会員のみなさまも、テレワークや遠隔授業でご経験されていることを鑑み、with コロナ時代に相応しいように、リモートでの談話会へのご参加を常態化していきたいと思います。

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